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ダリオ・アルジェント監督作品の名場面に製作風景、監督自身やスタッフのインタビューを交えて構成されたドキュメンタリー映画です。まだCGが無い時代の中、手作りの化け物や巨大クレーンを使ってのワイド感のある映像の制作秘話が語られています。1969年から1985年までの作品が対象になっています。具体的に作品名を挙げると、歓びの毒牙(きば)、わたしは目撃者、四匹の蝿、サスペリアPART2 紅い深淵、サスペリア、インフェルノ、シャドー、フェノミナ、ゾンビ、デモンズです。作品を全部見てから、このドキュメンタリーを見ると、なるほどと感心して見れますよ。大変貴重なメイキング・フィルムでダリオ・フリークなら必見です。(サスペリア アルティメット・コレクション DVD-BOX (5000セット限定)の特典ディスクに、はしょったバージョンが付いていますがメイキング+映画のシーンというこちらの構成の方が楽しく見れます。)以下、自分が印象に残ったシーンをキャプチャー画像を混ぜて書いていきます。
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オープニングは唇のアップから、監督は赤が大好き。赤は官能的で怒りと暴力の象徴だと言っています。そして自分が憧れている夢の世界の映画、これを作る理由は、映画を通してみんなと結びつきたい、みんなの心が、愛が欲しいと言っています。ある意味、オタクだった子供時代のアルジェントは、神経質で人との付き合いがうまく出来なかったのかもしれませんね。だから自分の表現方法として映画製作に入っていったのかもしれません。さて、サスペリアでは、当時使われなくなったディズニーの技術・テクニカラーを使って、赤、青、緑のフィルムに映像を焼付け、シーンごとに3枚組み合わせて、色の強弱をつけて立体感を出したそうです。これはサスペリアの撮影監督ルチアーノ・トヴォリが語ってくれています。

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サスペリアのダニエルが犬に噛まれるシーン。ワイヤーを張り40メートルの高さから滑車付きのカメラを落下。悪魔の鷹が舞い降りる映像を取る為でした。また映画の中の殺人者の手は自分だと言っています。殺人者の手の演技は自分が一番と豪語しています。また映画の殺人は全部偽物だから、死は美しい、美しくなければいけない、そして殺しには、殺す者と殺される者との間に一種の性的関係が生じるのでは?とも言っています。殺しのナイフは男根で、殺しもセックスも官能的で、血みどろだ、死と性のオーガズムには共通点があるとも言っています。もう、自分の発言に入り込んでいますね。ちょっとかっこよ過ぎるし、のめりこむ人です。でも、変人位じゃないと、こういう映画は作れないかもね。

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シャドーで使われたフランス製のクレーン・カメラ。窓から窓の移動シーンを1カット内に収めて撮る事が出来ます。カメラの支点には、上下左右どの方向にも動けれるよう細工がしてあります。長いアームの先に付いたカメラが、舐めるように壁をつたいながら、女性の部屋を狙います。まるで、観客自らが殺人者になって、今から忍び込もうという感じの映像が出来上がります。アルジェントは基本的に1人称カメラが好きなんで、思いついたんでしょう。でも、なんか、覗き趣味&盗撮用のようなカメラで、男の願望を叶えるような物ですね。見ていて笑えてきましたyo。

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ランベルト・バーヴァ監督のデモンズのメイキング。ダリオは脚本と製作を担当。左上はデモンズに変身した女の頭部。これはリモコンで目や歯や皮膚が動きます。とても作り物と思えない程、精巧でした。またラストのヘリコプターが墜落してくるシーンは、本物のヘリを映画館に持ち込み撮影されました。ヘリの上に乗ってダリオが語ります。昔はミニチュアだったけど、今はスケールが違うなぁと。また、昔のように俳優は威張らなくなったのは良いが、家族を置き去りにして、外国へ撮影にいく俺たちは戦士だと。それは、思い込み過ぎでしょ。だって撮影では死なないからね。(笑)

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フェノミナのチューリッヒでの撮影風景。まず冒頭のロングショットの為に用意されたのがドイツ製の巨大移動クレーンにケージをつけた物。森の木を越えて、その向こうの一軒家を狙います。その下の写真は、主演のジェニファーの手に蜂が止まるシーンの準備風景です。ダリオが10年来信頼している動物学者が蜂に麻酔をかけて、針を抜き、ナイロンの糸を蜂の体に巻きつけます。そうすれば蜂を操る事が可能なのです。更に、メルセデスのルーフをカットして、車の上に小さな小屋を作る。そこに蜂を操る人が乗りこんだそうです。実際にメルセデスを走らせての撮影でした。またフェノミナでは実際に肉を腐らせて600万匹の蝿も用意したそうです。この蝿はラストでボートの上の怪物に取り付くのですが、怪物のメイクをした役者さんにシロップを塗りつけ、本当に蝿を体中に張り付けたそうです。オエ。これは、気持ち悪いぜ。ただし、ジェニファーの入るウジ・プールは偽物。水をためて、色を着色。ウジの代わりにカンナくずをばら撒く。そしてヨーグルト、チョコレート、ミントを入れ腐った水を表現しています。最後に骸骨を入れて、ジェニファーが入る。ニコニコ笑っている、まだあどけないジェニファーが印象的でした。このメイキングを見て、ダリオの実写主義は徹底しているなあ、と感じました。ここまでやる監督さんは、コストもかかるし、もういないんじゃないかな。でも、CGなんかより出来る限り実写で作った方が、オイラ達観客は感情移入しやすいし嬉しいんですがね。

1986年 イタリア DARIO ARGENTO'S WORLD OF HORROR、IL MONDO DELL'ORRORE DI DARIO ARGENTO ★★★☆
監督、脚本:ミケーレ・ソアヴィ
音楽:ゴブリン クラウディオ・シモネッティ
出演:ダリオ・アルジェント ルチアーノ・トヴォリ