ニューヨークからイギリスのウェールズに向かうアイデルと娘のサラ。ウェールズには別居中の夫ジョージがダフィッドと共に牧羊を営んでいた。アイデルは田舎暮らしも悪くないと考え復縁も思案中だった。途中道に迷い、車の中で野宿する事になる。明け方アイデルは娘が失踪して、何者かに崖から突き落とされる夢を見る。幸い娘は隣ですやすや眠っていた。ジェームズの家は切り立った崖の側に建っていた。その脇には記念碑のような大きな石碑があり、その由来をダフィッドが教えてくれた。昔ここの地方には信仰心に厚い自給自足の民が住んでいた。その中にはリーダーがいて彼は教祖だった。

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ザ・ダーク amazon
The Dark trailer 2005
ある日大勢の人が辛い人生から逃げたいのか?突然石碑の前の崖から集団飛び降り自殺をした。そこまでダフィッドが話すと羊が突然興奮して暴れだし、挙句の果てに飛び降り自殺をしてしまった。翌日羊の始末をしに皆で海岸まで降りていく。サラはそこで海の中から鍵を見つけ、水中に少女の影を見てしまう。その後、彼女は忽然と行方不明になってしまった。彼女は海に引きずりこまれたのか???アイデルはサラが失踪して錯乱状態になりその晩、窓に映った少女を追って近くの小屋にたどり着く。中は荒れ果てていたが何者かがいた。サラと思い込んだが彼女は自分をエブリルと言い、この場所は羊の屠殺場であり、ここは羊の脳みそから悪い物を取り払って浄化してから殺す場所だとも言った。それからアイデルはこの屠殺場とサラの失踪は関連があると考えるようになる。彼女は一人で図書館に行き歴史の調査に入る。図書館のおばさんは、ウェーズルの神話を教えてくれた。失踪したサラは冥界で寝ていて、そしてそこは人間界と霊界を結ぶ世界であり生きる屍が行ったり来たりしているとも語った。そして帰宅したサラが見たものはサラのベッドで寝ているエブリルだった。エブリルは昔、教祖の娘であり、体が弱く50年前に病死していた。悲しんだ教祖はエブリル復活の為、立場を利用して羊飼いの村人を騙す。この崖から飛び降りれば冥界に行き幸せになれると。ウェールズの神話には人を冥界から連れ戻すには生贄が必要だったからだ。信仰心が厚い村人は次々に集団自殺する。ダフィッドの両親もその中の一人だった。その後エブリルは生き返って戻ってきたが、羊が次々に死に、自殺を始めた。父は娘エブリルを監禁して頭の中に悪魔がいると考え頭を鉄の冠で固定して穴をあけ悪魔を出そうとする。これはほとんど拷問なのだが生きる屍の彼女は死ななかった。若きダフィッドは見るに耐えかねエブリルを牢屋から逃げ出させる。しかし彼女は逃げる所か、父親を崖から突き落とし殺してしまっった。それを見たダフィッドは後悔した。そしてエブリルを布でくるみ海の底に沈めるのだった。今回エブリルが再度生き返ったのはサラの命と引き換えだったのだ。この事実に気づいたアイデルはエブリルを葬るために一緒に崖から飛び降り心中する。そして自ら冥界に入り、サラを探し始めた。薄暗く不気味な冥界でサラを見つけるアイデル。そしてサラを開放して自らも海から這い出してジョージの家に向かうアイデル。目の前では夫がサラとしゃべっていたが、何故か自分の声は相手に伝わらない。そうやはり彼女は死んでいた。そして彼女の命と引き換えにサラは蘇ったのだ。サラとジョージはニューヨークへ向かう事を決意して車を走らせる。その車中の会話でサラが奇妙な発言をする。「秘密は誰にも言わない」と。彼女は本当はサラではなく、またしてもエブリルの生まれ変わりだった。顔は違えど精神はサラではないのだ。愕然とするアイデル。自分の目論見は失敗して、彼女は例の屠殺場で幽閉されてしまった。そしてドアの向こう側から拷問教祖が部屋に入ってきた。彼女は死んでも永遠に拷問を受けるのか・・・幕

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これは1997年のSimon Maginnの「Sheep」が原作で中々高尚なミステリー映画でした。今回は台湾のDVDでの鑑賞だった為、すべての言語が理解出来た訳でなく、プラス映画の背景に「ウェールズの神話」があった為、さらに難解になりました。全体的にスプラッター描写は少なく、ドキッという刺激は少ないです。でもね、結末は何ともやるせない。娘を助けるため、自ら犠牲になる母親の願いはついえたのです。大変後味の悪いラストでした。でも監督はDVDの特典映像に違うエンディングも用意していました。それはHAPPY END VERSIONでした。アイデルが死ぬ所は一緒なんですが、その後が違っています。サラは本当に生き返り、アイデルの犠牲は成功したのです。そしてアイデルは冥界でエブリルの母親代わりとなり暮らすのでした。ちなみに、このエンディングにはエブリルの父親の拷問教祖は出てきません。これは「ほの暗い水の底から」のような結末だったのです。
参考までに映画の背景を記載します。
ウェールズのケルト人は、海の彼方にあるアンヌン(Annwn)もしくはアヌーヴン(Annwfn)と呼ばれる冥界もしくは死者の国を信じています。(劇中の綴りはちょっと違ってAnnwynでした。わざと変えたのかもね?)そこでは永遠の若さが保たれ、病に苦しむこともなく、食料が足りなくなることもなく、楽しく酒宴が続いていると言われています。ここは、まさに極楽浄土なのです。ちなみに、ここはキリスト教や仏教の天国とか地獄という概念ではありません。精神の極楽と考えられていたようです。そしてアイルランドの伝説では、しばし闘いに疲れた英雄たちが、ここを訪れ英気を養うこともあると言われています。またケルトの思想には人身御供があり、カエサルが『ガリア戦記』第6巻において、詳しく人身御供について解説しています。それによるとケルト人は人一人の命を救うには、もう一人の人間の生命を神々に奉げないことには叶わないと信じています。そのために深い病に陥った者や戦場に赴く人の命を救うために、神前に人身を奉げるのです。・・・

2005年 イギリス・ドイツ THE DARK 陰靈 ★★★
監督:John Fawcett
原作:Simon Maginn
脚本:Stephen Massicotte
製作:Paul W.S. Anderson、Jeremy Bolt
音楽:Edmund Butt
出演:Maria Bello ... Adèlle
Sean Bean ... James
Maurice Roëves ... Dafydd
Sophie Stuckey ... Sarah
Abigail Stone ... Ebril
Richard Elfyn ... Rowan
Casper Harvey ... Young Dafydd
Eluned Jones ... Doctor
Gwenyth Petty ... Librarian
Robin Griffith ... Police Inspector
Mike Keggen ... Rib Skipper
Tonya Smith ... Main Stumblehead Martyr